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東京高等裁判所 昭和42年(行コ)42号 判決 1970年9月29日

控訴人 東京陸運局長

訴訟代理人 高橋正 外四名

被控訴人 ワカバ交通株式会社 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の関係は、次に掲げるもののほか、原判決の事実摘示中控訴された部分に関する分(これは、原判決の「事実」のうち、第二の「請求の原因」の二の「本件拒否処分の無効確認・取消請求について」の項の取消請求を主張するもの、第四の「被告の主張」の三の「本件拒否処分の無効確認・取消請求について」の項の取消請求に対する主張をしているもの及び第五の「証拠」の部分である。)と同一であるから、これを引用する。

第一控訴代理人の主張

1  本案前の抗弁

被控訴人らの本件免許申請にかかる営業所並びに車庫の敷地は、いずれも第三者に売却されているので、かりに、本件免許申請却下処分が取り消されたとしても、被控訴人らの本件免許申請は却下を免れないものであるから、本件訴えは訴えの利益を欠き不適法として却下されるべきである。

一  原判決は、「原告らの勝訴の判決が確定すれば、原告らの本件免許申請は、本件拒否処分がいまだ行われていない状態に復帰し、被告は本件拒否処分及び本件免許処分が行われた当時の審裁判査基準にてらし、原告らの免許申請と競争関係にある他のそれとの比較において原告らの本件免許申請につきその許否を決定しなければならないのである」(原判決四七枚目裏七行目以下)と述べている。すなわち、本件拒否処分が判決によつて取り消され、控訴人が審査のやりなおしをする場合に、被控訴人らが当初の免許申請の内容を変更することが許されるか、或は、免許の審査基準は、本件拒否処分当時のものによるべきか現在のものによるべきかなどの問題が生じるのであるが、原判決は、本件拒否処分当時の審査基準により、本件拒否処分当時の競争関係のもとにおいて審査すべきものであるとしたのである。

その理由は、本件免許申請がなされた昭和三六年度の東京都区内一般乗用旅客自動車運送事業における増車台数には一定の制限があつたこと、同年度における免許の申請は同年二月一一日午後零時三〇分で締切り同日以後の追加申請や計画書の変更は一切認めない取扱いであつたこと、そして公示に基づく多数の新規免許の申請は割当免許台数の範囲内において競争の関係にありこれらに対しては同一審査手続によつて相互の優劣関係の審査を行ない、その順位に基づき一連の処分として免許の許否が決定されたこと、したがつて、本件拒否処分が判決によつて取り消された場合においても、本件免許申請は右の如き条件のもとにおいてその許否を決定するのでなければ他の申請人との関係において不公平な結果を招くことになるからであろう。

二  ところで、被控訴人ワカバ交通株式会社(以下「被控訴人ワカバ交通」という。)は、本件免許申請にあたり、訴外渋谷長一より同人所有の杉並区堀の内二丁目四九一番、訴外榎本誠一外五名より同人ら共有の同所四九二番の一の各土地を購入し、これを営業所並びに車庫の敷地にあてるという事業計画を提出し、右各土地の売買契約書(四九一番については、手附金三〇〇万円、残高七三〇万円の支払期昭和三七年三月三一日。四九二番の一については手附金二三〇万円残金五四五万七五〇〇円の支払期昭和三七年三月三一日)を提出していたものであるが、右各土地はいずれも昭和三七年三月二〇日前記訴外人らより訴外大陸交通株式会社に売買譲渡され、その旨の所有権移転登記もなされ、右訴外会社は、同三九年四月六日付で控訴人の認可を得て右土地に一般乗用旅客自動車運送事業の営業所・車庫等の建物を設置してこれを使用している。

また、被控訴人エス交通株式会社(以下「被控訴人エス交通」という。)は、本件免許申請にあたり、訴外中島力蔵より、同人所有の世田谷区大蔵町二五九番の一の土地を購入しこれを営業所並びに車庫の敷地にあてるという事業計画を提出し、右土地については昭和三六年五月一二日付をもつて被控訴人エス交通名義に所有権移転登記がなされていたものであるが、被控訴人エス交通は、右土地を昭和三八年三月二三日付売買をもつて、訴外一越観光株式会社に譲渡し、その旨の所有権移転登記がなされ、右訴外会社は昭和三八年六月二六日付で控訴人の認可を得て右土地に一般乗用旅客自動車運送事業の営業所・車庫を設置してこれを使用している。

三、以上の事実によれば、被控訴人らの本件免許申請は、一般乗用旅客自動車運送事業において最も重要な要素となるべき営業所並びに車庫を欠く重大な欠陥を有するに至つたものであるが、かりに、被控訴人らが他に営業所並びに車庫の敷地を確保し、事業計画の変更を行なうとすれば、前述した如く昭和三六年度における一般乗用旅客自動車運送事業の免許申請については、申請内容の変更を許さない取扱いであつたことに反することとなり、また、右の如き変更を認めると、当初の免許申請の内容とは条件が異ることとなり、昭和三六年度における他の免許申請者との優劣関係の比較が不可能とならざるをえないのである。

以上により、かりに、本件拒否処分が取り消されたとしても、被控訴人の本件免許申請は、却下を免れず、被控訴人らの本訴請求は訴えの利益を欠き不適法である。

2  本案の主張

一  道路運送法五条は自動車運送事業の免許申請手続を規定し同条四項において運輸大臣は、申請者に対し、商業登記簿その他必要な書類の提出を求めることができることとされている。

本件において、控訴人は、被控訴人らに対し、右道路運送法五条四項に基づいて聴聞期日までに「都市計画法上および建築基準関係法令により車庫の建築が支障ない証拠書類」の提出を求めたのである<証拠省略>。しかも、右証拠書類(証明書)については事前に陸運局長から、東京都首都整備局を通じ各区長、各地方事務所長、各建築主事に対し証明書の発行方依頼してあつたので、申請人らが右証拠書類を提出することは極めて容易な事柄であつた。

右の如く控訴人が法令に基づいてその提出方を求めた文書を提出しなかつた場合には、申請ないし申請手続に申請人の責に帰すべき欠陥が存することとなり、これがためにその申請が不利益な取扱いを受けることがあつても止むを得ない場合がありうるのである。控訴人は、右の如き証拠書類を提出期限(聴聞日)までに提出しなかつた者については、追加提出(申請手続の欠陥の補正)を許さず申請を拒否したのであるが、このような取扱いが是認しうるか否かは、タクシー事業免許の性質或はその審査手続の公正の保障(東京高裁昭和四二年七月二五日判決行裁例集一八巻七号一〇一四頁参照)という見地もさることながら当時のタクシー事業免許の実態との関連においても検討されるべきである。

二  ところで、昭和三六年度の東京都特別区域におけるタクシー事業の免許台数は五〇〇輛と決定されており、これ以上の免許は行なわない方針であつた。これは東京都特別区域における定住、移動人口、交通機関別輸送分担、経済成長、タクシー事業の車輛数、地区別配置状況、過去における輸送実績、道路交通の実情、事故の発生状況等の推移等について総合的に検討した結果に基づくものであり、道路運送法六条一項一、二、五号の免許基準を具体化したものということができる。

一方、昭和三六年度において右免許台数に対してなされたタクシー事業の免許申請は、既存法人九九九社(計八一〇二輛)、新規法人四七八社(計一〇、四三六輛)、新規個人三七九六名(計三七九六輛)という状況であつた。ところで、既存法人と新規法人と個人とでは、道路運送法六条一項三、四号に定める事業計画の適切性とか事業遂行能力の適確性など(以下「事業主体の適格性」という。)を審査する場合に同列に比較することは不適当であり、右三者の具体的審査基準も異つていたので、控訴人は前記五五〇〇輛を、既存法人に三七〇〇輛、新規法人に一二〇〇輛、個人に六〇〇輛(個人は一社〇、五輛に換算するので一二〇〇名一二〇〇輛となる)という具合に割振り、新規法人については一律に一社二〇輛とすることにした(右の如き処理方針の適否は本件で争いがない。)。

右の如き方針で処理した結果を新規法人についてみると、免許を受けた法人六三社(一二六〇輛)、免許を拒否された法人四一五社という結果になつたのである。

三  右に述べた如く、昭和三六年度におけるタクシー事業の免許は、多数の競願関係を有する者から少数特定の者を選び出すことになつたのであるが、この場合に、多数の競願関係者全員について当該事業主体の適格性の観点から客観的な優劣順位を付しうるとすれば、その順位に従つて少数特定の者を選び出すのが最も公正な取扱いということができよう。

しかしながら、右の如き多数の競願者全員について、その事業主体としての適格性を比較判定することは、いうべくしてしかく簡単なことではなく、また、かりに可能だとしても、相当長期の日時を要すべく、かくては昭和三六年度に五、六〇〇輛を増車しょうとする行政目的を達成することはできない。従つて、右行政目的を達成しようとするためには、事業主体としての適格性に関する実質的審査を行なうについて、まず形式的審査基準を設けて一定数の者を選び出し、それらの者達についてのみ実質的審査を行ない、その優劣順位を決定することも己むをえない措置であらねばならぬ。特に優劣性において殆ど同等とみられるような競願者が多数存した場会には、右の如き方法は、なおさら是認しうるところであろう。

控訴人は右の如き見地から、まず免許申請書の形式(証明書の添付等)を重視したものであり、その判断基準時は聴聞施行時点に限定していた次第である。而して叙上の如き形式的審査基準(判断時を含む。)をどのように定めるかは行政庁の自由に定めうるところであり、手続の公正性は右の如き形式的基準の厳格なる適用にこそ求めらるべきである。

四  ところで、昭和三六年度におけるタクシー事業の免許において、新規法人については、次の事項が審査基準とされた。

イ 事業の適正な運営を期するため発起人もしくは役員またはこれに準ずる者の結束力が強固であり、かつ、事業遂行の主体性及び自主性が明確であること。

ロ 事業の健全な経営を確保するため資金計画が健全であり、かつ、資金調達の見透しが確実であること。

ハ 車両の管理及び道路交通の円滑化に資するため、車庫の立地及び収容能力が適切なこと。

ニ 労務管理の適切を確保するため運転者の休憩、睡眠または仮眠の施設が整備されていること。

ホ 事業計画の遂行及び労務管理の適正を図るため運転手の確保の見透しが確実であること。

ヘ 供給輸送力の比較的稀薄と認められる地域または国鉄及び私鉄の駅における輸送力の増強に資するよう適正な計画であること。

これらの審査項目は昭和三六年一月七日公示され(乙一号証)、免許を申請しようとする者に一般的に周知徹底されたものである。そして控訴人は右審査項目について、免許申請書の内容、聴聞期日に持参した証拠書類、聴聞の結果等に基づき総合判断した上で免許の許否を決定したものである。

そこで、被控訴人らの免許申請について、右審査項目に照らして検討してみると、いずれも次のような欠陥が認められ、被控訴人らの免許申請はいずれも拒否せざるをえないものである。

五  被控訴人ワカバ交通の不適格事由

(1)  被控訴人ワカバ交通は、本件免許申請(昭和三六年二月一一日)の二日前に代表取締役近藤貞を中心として発起人八名をもつて設立された法人であり、うち五名が役員となつている。

ところで他の免許申請会社についてみると、聴聞日には、殆んど全員の役員が出席しており、出席しない役員がある場合には委任状等を提出しているのが多数であるのに、被控訴人ワカバ交通の聴聞日に出席したのは近藤貞、青木正男の二名の役員のみであり、右の如き役員の出席状況からして、被控訴人ワカバ交通の役員については前記審査基準イにいう役員の結束力が薄弱であることが認められた。

また、前記審査基準イにいう事業遂行の主体性については、代表取締役と常勤役員の出資額合計が資本総額の五〇%以上であることが一つの目安とされたのであるが、被控訴人ワカバ交通の代表取締役(近藤貞)及び常勤役員(長尾利雄、青木正男)の出資額は一、二五〇万円であり、資本総額三、五〇〇万円の三五・七%であつたので、事業遂行の主体性においても劣るものであつた。

(2)  被控訴人ワカバ交通は東京都杉並区堀の内二丁目四九一番田、六畝一六歩および同所二丁目四九二番田、四畝二五歩を購入しこれを営業所並びに自動車々庫等の事業用施設の敷地に充てる計画であつたが、右四七一番の土地については手付金三〇〇万円を支払つたのみで残金は昭和三七年三月三一日までに支払うこととなつており、右四九二番の土地については手付金二三五万円を支払つたのみで残金は昭和三七年三月三一日までに支払うこととなつており、結局敷地購入費一、二七五万七、五〇〇円が未払いの状況にあつたにもかかわらず、被控訴人ワカバ交通の免許申請書添付書類第八号「事業の開始に要する資金及び調達方法」においては、固定資産購入費のうち右各土地の購入費が全く計上されておらず、かりに予備金一〇万円並びに申請計画通りの純利益五一八万六、三九八で支払うとしても、右各土地の購入代金残額を支払期日までに完済することは不可能と認められた。

以上により被控訴人ワカバ交通の申請内容は、事業の健全経営を確保する為の資金計画が不健全であり、前記審査基準に抵触するものである。

(3)  道路運送法五条三項同法施行規則四条二項三号によれば、免許申請書には運輸開始後一ケ年間の事業の収支見積りを添付することとなつているが被控訴人ワカバ交通の添付書類一二号「営業費見積」によれば、たとえば、運送費のうち経費の欄には、旅費三万六、〇〇〇円、通信費二万四〇〇〇円、燃料費九三五万二五〇〇円などと記載されているのみで、たとえば、燃料費についてみると年間走行粁数、燃料の種類、使用量、単価等の算出根拠が示されておらず(これらの点は被控訴人エス交通の収支見積の記載と対比されたい。)事業の健全な経営を確保しうるか否かを適正に判断するための適確な収支見積りに欠けるものである。

(4)  被控訴人ワカバ交通の自動車車庫の敷地予定地は建築基準法四八条にいう「準工業地域」になつており、かつ、都市計画法一〇条二項の「風致地区」としての指定も受けているため東京都条例「東京都風致地区規定」三条二項の規定によつて建築基準法四九条一項の「住居地域」と同様の建築制限を受け、床面積の合計が五〇平方米を超える自動車車庫を建築することはできないものである。

しかるにワカバ交通は前記敷地に床面積一二五・六平方米の有蓋車庫を建設する予定であり、この点は前記審査基準ハにいう車庫の立地の適切性に欠けるものである。

また、右敷地予定地は、地目が田(農地)となつており、その所有権移転或は転用についてに農地法上の許可を受けなければならないものであるが、被控訴人らは、これらの手続きを履践しておらないものであるから事業計画の適切性において劣る点がある。

(5)  道路運送法二五条の二並びに道路運送車両法五〇条によれば、事業用自動車五輛以上の営業所においては必らず運行管理者と整備管理者を選任しなければならないこととなつている。ところが、被控訴人ワカバ交通の計画によれば、これら管理者の選任が不明確であり、それについての経費の計上もない。

この点は被控訴人エス交通が管理費の(人件費)として運行管理者二名、給料基本月額一名当二、五〇〇〇円と明確に記載していることと対比しても被控訴人ワカバ交通の事業計画が適切なものでないことが認められる。

(6)  被控訴人ワカバ交通は、四八名の運転者を雇傭することとしているが、その採用の予定者もしくは運転者確保の具体的計画が明示されておらず、この点は前記審査基準ホにいう運転者の確保の確実性に欠けるものである。

六  被控訴人エス交通の不適格事由

(1)  被控訴人エス交通は、代表取締役桜井薫を中心として免許申請の期日に設立された法人であるが、その代表者と常勤役員(斎藤久)の出資額合計が資本総額の二八%にすぎずこの点は被控訴人ワカバ交通について述べたと同様に事業遂行の主体性に劣るものと言わざるを得ない。

(2)  被控訴人エス交通は、東京都世田谷区大蔵町二五九番の一宅地二二二、一二坪を購入して営業所及び自動車車庫等事業用施設の敷地に充てる計画であつたが、右土地代金は、昭和三六年二月一〇日に五〇万円を支払い、同年九月一〇日に三〇〇万円、残金三一六万三、六〇〇円は昭和三七年三月一〇までに支払うこととなつていた。しかるに三〇〇万円については事業の開始に要する資金として計上しているが、残金二一六万三、六〇〇円については、事業の収支見積書にも計上されておらず、その支払計画は全く不明である。

(3)  被控訴人エス交通は事業開始に伴う運転資金として保険料、被服費、諸手数料及び予備金など計一九七万八、七九五円を計上しているが、事業の開始にあたつて直ちに必要となる人件費、燃料費、油脂費等(エス交通の支出見積りによれば、人件費(運転者)は年間二、二七四万八、〇一六円、燃料費は年間九四七万六、七四四円であるから、一ケ月分の人件費は一八九万五六六円、燃料費は七八万九、七二八円となる。)の計上がなく予備金六一万二、六三五円をもつてこれらの費用をまかなうことはとうてい不可能である。

一般に運輸開始にあたつて当面必要となる運転資金は、概ね一ケ月間の経費を見込まなければならないが、被控訴人エス交通の支出見積明細書によれば年間支出五、二三四万六、五六〇円であり、その一ケ月分は四三六万二、二〇〇余円であるから運転資金一九七万八、七九五円しか計上していないのは資金計画が健全であるとは言い難く前記審査基準ロに抵触するものである。

なお被控訴人ワカバ交通の運転資金三六八万八、八〇〇円と比較しても、被控訴人エス交通の運転資金が過少であることは明らかである。

(4)  被控訴人エス交通の自動車車庫の建築予定地は建築基準法四八条による「住居地域」の指定がなされ、同法四九条一項により、床面積の合計が五〇平方米を超える自動車車庫の建築は許されない。しかるにエス交通は、床面積一二五・六平方米の車庫を建築する予定であり、これは明らかに建築基準法の建築制限に触れ、前記審査基準ハに抵触するものである。

(5)  被控訴人ニス交通は四八名の運転者を雇傭することとしているが、その採用の予定者もしくは運転者確保の具体的計画が明示されておらず、この点は前記審査基準ホにいう運転者の確保の確実性に欠けるものである。

3  被控訴人らは、免許申請時における計画と異なる営業所車庫を設置しているタクシー業者がある旨主張しているが、これに対する認否は次のとおりである。

イ、練馬タクシー株式会社否認。申請時から練馬区関町六ノ二八七である。

ロ、芙蓉交通株式会社は認める。但し、申請時は大田区雪ケ谷七八である。

ハ、北交通株式会社は認める。但し、現在は北区赤羽北二ノ一二ノ一四である。

ニ、シルバータクシー株式会社は否認。申請時から練馬区関町四ノ甲六八八である。

ホ、ライオン交通株式会社は認める。

右の外として、関東交通興業株式会社をあげているが、認める。

第二被控訴人らの主張

1  本案前の抗弁に対する主張

一  控訴人は、被控訴人らが免許申請にあたり提出した事業計画のうち、営業所、車庫用地がすでに売却されているので、右事業計画が変更されたことになり、申請時における事業計画不変更の取扱いに反すること、及び変更を認めると昭和三六年度における他の免許申請者との優劣関係の比較が不可能となると主張する。

(1)  なるほど被控訴人らは、控訴人の主張のように、営業所、車庫用地を処分している。しかしながら、現在において、事業計画を変更しているのは、被控訴人ばかりではない。昭和三六年度は免許を受けたもののうち、申請時における計画と異なる営業所、車庫を設置しているものが次のとおりである。すなわち、

(一) 練馬タクシー株式会社は、申請時の練馬区関町六-甲三〇五を現在は、同区中村南二の二に変更し、

(二) 芙蓉交通株式会社は、申請時の大田区雪ケ谷七八六を現在は同区南六郷二の三六の一五に変更し、

(三) 北交通株式会社は、申請時の北区神谷町二の一の二を現在は同区赤羽北二の一二の二四に変更し、

(四) シルバータクシー株式会社は、申請時の練馬区南町四の六八を同区関町四の甲六八八に変更し、

(五) ライオン交通株式会社は、申請時の板橋区上板橋七の一六八を同区坂下一の二二の一七に変更し

ているほか、関東交通株式会社の如く、営業権を譲渡し、申請時における営業所で営業していない会社もある。

(2)  以上のとおり、免許を受けたものにも変更があるのであるから、かりに、被控訴人らが申請時どおりの事業計画、特に営業所、車庫の用地を保持していたとしても、優劣の比較は不可能となるわけである。控訴人の主張は、免許を受けたものに対しては変更を認めるが、控訴人自身の不公正な審査により免許を拒否されたものは、その拒否処分が取り消され、更めて審査をうける時まで何年でも申請時どおりに維持すべきことを強制するものである。免許を拒否され、従つて会社の事業目的が遂行できない上に数百万円、数千万円もする用地をそのままにしておけというのは経済的に不能を強いるものであるのみならず、法律上二重に不公正な取扱いをするものである。けだし、控訴人の不公正な審査がなかつたとしたら、被控訴人らは免許を得て他の者と同様事業計画の変更すなわち営業所、車庫用地の変更が許される筈なのに、これが認められないとすると、免許の時とそれ以上と再度の不公平な取扱いを受けることになるからである。

(3)  次に、控訴人は、事業計画不変更の取扱いに反するというが、控訴人は、原審において、事業計画の内容を固定するのは、大量の申請を短時間に審査するための便宜に由来する技術的な要請であり、したがつて、審査の進行に差支えない限り、申請人個々の合理的な意思を尊重し、柔軟かつ弾力的に取り扱うべきであると主張している。しかして、審査に支障を及ぼさないという限定から補正の限界は申請内容の同一性をもつて限界としている。

ところで、被控訴人らの主張が認められ確定したとするならば、僅かに二社に過ぎないのであるから、充分に審査の時間もあり、支障の生ずるおそれもない。よつて、申請時におけるが如き制約は全くないのである。すでに拒否処分後七年近くも経験している点からいつても、再審にあつては、被控訴人らをして相当期間の猶予を認め、事実計画の補正を容認すべきものである。これが行政庁としてとるべき望ましい態度である。

(4)  右の次第であるから、被控訴人らの営業所、車庫用地の処分は、なんら批難すべきものではない。原判決のいうところは、要するに当時の資料により、当時の審査基準で審査すべき原則を示しているものであつて、時日の経過に伴う合理的な変更を否定しているのではない。

二  被控訴人らの車庫建築予定地は、現在他のタクシー業者の営業所、車庫として控訴人の認可をうけて使用されている。これによつてみれば、被控訴人らが免許申請にあたり計画した車庫建築は、建築基準法上絶対的に不可能なものではなかつたことが明らかである。控訴人が本訴において主張しているように、被控訴人らの車庫建築計画に関する「合理的な補正意思」が他の免許獲得者と同じように尊重され、また、「柔軟かつ弾力的」に扱われさえずれば、車庫建築の認可ひいては免許獲得が可能だつたのである。したがつて、控訴人の本件免許拒否処分は、計画内容の不適ではなく、原判決の指摘した如く、不公正な審査手続に基因したものであることが明白である。

2  被控訴人らに対する新たな不適格事由の主張について。控訴人の被控訴人両者に対する新たな不適格事由の主張は、故意又は重大な過失により時機に後れて提出した防禦方法であつて、控訴の完了を遅延せしむべきものであるから、却下を求める。

(1)  本件第一審の口頭弁論が開かれたのは昭和三七年五月二四であり、控訴人が右主張をなした昭和四三年一一月二日まで実に六年五ケ月もの年月を経過し、この間第一審において計三六回の口頭弁論期日又は準備手続が開かれたにもかかわらず控訴人は全く主張をしていない。控訴審においては、従前の防禦方法を補充し、これに対する証人申請もした。しかし、補充した事実を被控訴人らが認めたので証人調の必要もなくなり訴訟手続は正に一段落した時機である。控訴人は、行政庁であつて、その組織、人員、調査能力いずれの点からみても、本件新不適格事由の主張、立証は容易にできた筈である。まして被控訴人らの免許申請却下のときに右事由がわかつていたというのであるからなおさらである。

それにもかかわらず、今度唐突に主張するのは正に故意又は重大な過失により時期に後れて提出した防禦方法というべきである。

(2)  控訴人の主張につき新たに立証の必要があることはいうまでもない。被控訴人らは当時の役員らを証人として申請する必要があるところ、被控訴人両社とも申請時の役員はすべて退任しており、また、本件訴訟提起当時の代表取締役は昭和四一年一一月二九日死亡している。したがつて、被控訴人らとしては控訴人の主張に対する反証に相当の時日を必要とする。

特に控訴人の前記主張は細部にわたるものであり、その当否については、被控訴人両社の事業計画のみならず、免許をうけた者の事業計画のそれとを比較対照する必要がある。けだし、計画についてはおよそ完全無欠なる計画はあり得ないのであり相対的なものだからである。免許をうけた者の計画と比較しないとすれば控訴人の一方的な指摘で決定されることになつてしまうのである。

右の如くであるから、控訴人の主張を許すときは著しく訴訟を遅延せしめるものである。

(3)  被控訴人の本訴提起は控訴人の不公正な行政処分の無効を請求し、もつて被控訴人らの権利の救済を求めるためのものである。

ところで、タクシー業の免許については、社会及経済情勢の変化により漸次廃止される方向にあることは周知のとおりである。そうだとすれば、被控訴人らの請求の当否につき迅速なる判断が緊要である。裁判中は休業の状態にあるので被控訴人らの経済的苦痛は甚大なものである。しかしながら、一方公平なる裁判の実現という見地からすれば第一審において六年間の審理を必要としたことは止むを得ないことである。被控訴人らは解散の危機に堪えながら今日まで訴訟を追行してきたのであるが、公正なる行政庁としては右第一審中に主張すべきは主張しておくべきであつて六年以上も経過した第二審において新たな主張をするのは、時機に後れた防禦方法として許されないばかりでなく、権利救済のため本訴訟を無意味ならしめるものである。

よつて、控訴人の不適格事由の新たな主張は却下を求める次第である。

3  かりに、控訴人の被控訴人らに対する右の新たな不適格事由の主張が許されるとすれば、被控訴人らは、次のとおり反論する。

一  控訴人主張の審査基準の存在したことは認めるところで、右基準を申請人の提出した事業計画に適用して評点する場合、発起人申請の事業計画と法人申請のそれとの間において、後者に対し優位の評点を与えることが公正にして合理的な処置である。その理由は、次のとおりである。

(1)  発起人申請の計画は、会社が未成立、資本金も未払込、業務執行者も未定であるから、厳密には会社の事業計画ではなく、発起人の目論見書に過ぎないものである。極論すれば机上の作文ないし数字である。

(2)  右の点を具体的に指摘すると、例えば基準イの経営者の結束力の問題において発起人申請の場合は発起人が単に名義だけでなく、真に団結して会社を設立し、執行者となり計画を遂行するものか否かは重要な問題である。したがつて、聴聞の日に全員出席したかどうかというナイーブな事も一つの判定資料となるであろう。しかし、法人申請の場合は、現に業務執行者が選任されており、その執行者らが協議し免許の申請をすることを決議しているのであるから聴聞においても代表権を有する取締役が出席すれば充分である。

(3)  ロの基準である資金計画、資金調達の見通しについても同様である。特に資金調達については、法人申請の場合は払込資本金の範囲では既に見通しではなく、現実のものであるから発起人申請のそれにおいて、控訴人はいかなる点から資金調達の見通しを判断したか不明であるが、いかに尤もらしく数字を挙げてあつたとしてもそれはあくまで見通しに過ぎない。

資金計画についても、根本的に現在選任されている業務執行者の計画と将来業務執行者になるであろう者の計画とでは客観的な評価が違うのである。

二  控訴人は多数の申請人から少数の適格者を選ぶ必要があるので形式的な審査が重要であることを強調する。そうだとすれば、発起人申請と法人申請とは形式上明白であり、かつ前述の理由から法人申請に対し優位な評価をなすべきである。法人申請の場合は、自動車運送事業を経営すべき意思をもち、現実に資金を拠出して会社を設立しているのであるから、発起人申請のように免許になつたら、そこで会社を設立しようとする者と同列に論ずるべきではない。

なお、控訴人は、免許を拒否した被控訴人両名の計画を対照し部分的な優劣を論じているが、それは一応の参考にはなるが却下処分の理由となるものではない。けだし両者とも却下処分をうけた計画だからである。免許をうけた者の計画との全般的な比較でなければ却下理由の主張としては無意味である。

三  控訴人主張の不適格事由に対する具体的反論

被控訴人ワカバ交通について。

(1)  既に取締役が選任されており、その代表取締役及び取締役一名が聴聞に出席しているのであるから問題はない。

当社役員の株式数は、次のとおりであつて、控訴人の主張は事実と異る。

近藤貞  一一、〇〇〇株 取締役 一五・七パーセント

長尾利雄  七、〇〇〇株 取締役 一〇パーセント

青木正男  七、〇〇〇株 取締役 一〇パーセント

竹内金太郎 七、〇〇〇株 監査役 一〇パーセント

伊東子之助 五、五〇〇株 監査役 七・八パーセント

計  三七、五〇〇株     五三・五パーセント

(2)  控訴人主張のように二筆の土地を合計金一、二七五万七、五〇〇円で買受けること、内金五三〇万円を支払済であること、残金七四五万七、五〇〇円を昭和三十七年三月三十一日までに支払うことになつていたことは認める。

ところで「事業開始に要する資金及びその調達方法」において土地購入費がゼロであるのは、当時免許をうけ開業するのは大体昭和三十六年八、九月頃と予定していた。よつて残金支払義務の未だ発生しない時期であるから、右書面に残代金を記載しないのは当然である。そして既に支払つた五三〇万円は昭和三十六年二月十一日現在の貸借対照表資産の部に土地仮勘定として記載してある。

運輸省令である道路運送法施行規則第四条第二項によると、申請書に添付すべき書類として前記「事業開始に要する資金及びその調達方法を記載した書面」を提出することになつている。この書面は免許をしても果して開業できるかどうか、また開業しても健全な経営ができるかどうかを資金面から判定するため提出させるものである。控訴人主張の基準ロは右判定のためのものである。

自動車運送事業は、開業に当り、車庫、営業所の設備及び自動車の購入等多大の資金を必要とするので、その額及び資金の調達を審査するわけである。この点からいうと、主眼は開業時までの資金の事を問題としているのであるから、当社の右書面の記載は法定の要件を欠いていないのである。

しかし、開業後の健全な経営ということも等閑にできない問題である。そこで、規則には、事業の収支の見積書の提出を規定してあり、これによつて判定するわけである。よつて当社に土地残代金の支払能力があるかどうかを見積書に基き説明すると次のとおりである。

当社は負債なし、つまり金利負担なしで営業を開始するのであり、一ケ年の事業の収支見積書(損益計算書に該当するもの)によると、固定資産減価償却費九一二万七、八六一円を計上して、しかも利益五四八万三九八円を挙げるほど経営成績が優秀である。ところで、当社の事業は殆んど現金収入のサービス業であるから、たな卸商品、売掛金、買掛金はなく、未収金、未払金は僅少である。それ故当社の利益及び償却費に相当する額の大部分が現金預金として保持される、開業後六ケ月を経過する昭和三七年三月末日においては、右利益及償却費の半額程度は流動資産として留保されているので土地残代金の資金に事欠くことはないのである。(右のほかの資金源については省く。)

そして、当社のように流動不債の少ない会社にあつては、右償却費相当額を土地(資産)取得に充てておく方が現金、預金のままにしておくよりも効率的かつ健全な資金の運用である。

当社の如く、当初において負債がなく、固定資産の多い会社は担保力からいつて、土地残代金相当額の融資をうけることは容易であるが、当社はこれを避け自己資金の活用によつて賄うことにしている。極めて健全なる経営方針というべきである。

なお、収支見積書は損益計算書形式で作成されているのであるから、これに経費ではないところの土地代金の支出を計上すべきでないことは勿論である(この点は後述する)

(3)  控訴人主張の数字が計上されていることは認める。しかし添付書類第一三号の「旅客運送収入算出基礎」により一日及び一ケ月の一車当りの走行粁は計算されているので年間の走行粁の計算はできるのであり、また燃料の種類はガソリンであつて、その使用量は通常一車当り三五リツトルないし四〇リツトルで、単価は一リツトル二三円ないし二五円であることはタクシー業界で周知のことである。聴聞時の説明で間に合う事項である。

よつて当社計上の数字で充分である。

附言すると、エス交通は控訴人主張のように内訳を記載している。ところで、エス交通も当社も、二〇車輛の運行を予定しているのであるが一ケ年の燃料費は前者が九四七万六七、四四円、後者が九三五万二、〇五〇円を計上している。この点からすると大差はなく両社の計算の基礎がほぼ同一であることが推定されるのである。

(4)  この点については第一審以来論争しているので省略する。なお、農地の転用については、現に他社の営業所となつている点からみて、申請当時において許可が得られる見通しは充分にあつた。

(5)  運行管理者、整備管理者については、控訴人主張のように記載がないことは認める。しかし、当社はそれぞれ管理費修繕費の費目を設け、必要な人件費を計上している(この点、エス交通と同様で、人件費もほぼ同額である)この費用により法定の有資格者を採用する予定であつたのである。しかしながら、事業の収支見積書は事業の健全経営を判定するものであり「収支を重点としている関係上、当社としては従業員の資格の詳細まで記載することは有用ではあるが不可欠のこととは考えなかつたのである。控訴人の主張は見積書評価の根本を逸脱し殊更に非を鳴らさんとするものである。いづれにしても聴聞時に口頭で説明し、補正すれば充分な事柄である。

(6)  当社の計画には、創業費一四七万円のうち募集費一〇万円、教育費七五万円、従業員選衡費一〇万円、従業員教育費二〇万円合計一一五万円が計上されており、営業開始まで充分確保できる見通しである。

免許になつた者と雖も、採用予定者を事前に確保していないのである。発起人申請の場合、免許の許否、したがつて会社の成否も未定であるから、従業員に応募しようとするものは先づないのである。採用予定者の名簿なぞは、机上のプランなら兎も角実際上は不可能である。むしろ被控訴人らのように会社が設立済であり経営者も決定しており従業員獲得の費用を計上している点をもつて従業員確保の重要な要件を充足しているものと評価すべきである。

四、被控訴人エス交通について。

(1)  当社役員の株式数は左記のとおりである。

桜井薫    七、五〇〇株 取締役 一二・五パーセント

斉藤久    六、五〇〇株 取締役 一〇・八パーセント

佐藤次男   四、〇〇〇株 取締役  六・七パーセント

小高滋    三、〇〇〇株 取締役    五パーセント

半谷岩夫   三、〇〇〇株 取締役    五パーセント

吉川治郎兵衛 三、〇〇〇株 監査役    五パーセント

斉藤道郎   三、〇〇〇株 監査役    五パーセント

合計   三〇、〇〇〇株       五〇パーセント

そのほか出資従業員一〇名、一六パーセントがあり、これを加えると六六パーセントとなる。

(2)  控訴人主張の数字が計上されていることは認める。しかし事業の収支見積書をみると現金の収支ばかりでなく退職引当金、固定資産減価償却費を計上しているので、損益計算書形式で作成されているのである。そうだとすると、土地代金のように経費ではない、資産の取得額が計上されていないのは理の当然である。控訴人は土地残代金の支出の記載がないことを批難するが控訴人主張のようにすると、右見積書は前近代的な大福帳式のものと損益計算書式のものとが混交することになり、不正確な会計書類となつてしまうのである。控訴人が右のような書類を優良として、これに基き免許したというのであれば、大きな過誤である。この点からすると免許を与えられた者の見積書を再審査する必要がある。

当社の残代金を事業開始に要する資金に計上しなかつた理由(期限未到来)及びその資金源についてはワカバ交通につき述べたと同様で、当社の収支見積書を審査すれば判然とすることである。(償却費九〇八万七、二四二円、利益四五〇万三、九二〇円)

当社の経営及び資金計画は自己資金を基本とし他人資本に頼つていない健全なものである。これまたワカバ交通の場合と同様である。

(3)  控訴人主張の数字が計上されていることは認める。しかし一ケ月の営業収入として、一八車輛、四四八万九、二〇〇円が計上されており、これが毎日現金で逐次収納されるので、これと運転資金一九七万八、七九五円で充分である。

同じく免許を拒否されたワカバ交通の数字とを一応参考のため対照してみると次のことが判明する。すなわち、ワカバ交通は運転資金として三六八万八、八〇〇円計上しているが、うち二二〇万六、〇五四円は予備金としている。

当社は一九七万八、七九五円のうち予備金として六一万二、六三五円を計上している。

運転資金として当然支出を予定しているのは、ワカバ交通の場合、予備金を差引いた一四八万余、当社の場合、一三六万円余であり、特に問題にするほど計数に差はない。ワカバ交通は当社より資本金が五〇〇万円多いので予備金を多大に計上しているだけである。よつて当社の数字も是認さるべきである。

(4)  これについては、既に論争済なので省略する。

(5)  運転者の確保については、創業費の内訳として、人件費六〇万円、人事調査費、選衡費一〇万円、教育訓練費一〇万円、その他費用五万円、計八五万円が計上されており、営業開始までに確保できる見通しである。なお、当社には従業員株主が一〇名いることは運転者確保の好条件である。

五  控訴人が当審において主張する不適格事由のうち車庫、営業所の立地条件に関する以外のものは、数字の組合せ、配列の良否、或は書類作成の巧拙に係るもので、実質的な内容に乏しい事項である。(特に発起人申請の計画においては、裏付が未確定であるから前述の如く机上の作文ないし数字である。)免許後に計画と実際とが違つていても、問題にするほどでない事項である。例えば土地代金を銀行から借入れて支払つても、燃料費が見積りより多額になつても運転資金が余つても或は運転者採用、予定者がそのまま採用されていなかつたとしても問題にはならないのである。

しかし、車庫、営業所の立地条件の問題は、具体的、実際的な事項である。計画と実施が違えば直に判明し、そのまま放置できない事項である。例えば車庫の位置に変更があれば事業計画の変更となり控訴人の認可を必要とするのである。

控訴人が車庫、営業所の立地条件の問題を免許可否決定の重要な事項として、第一審以来主張しているのはもつともといえるのである。

右車庫、営業所以外の事項、特に控訴人のいう新不適格事由の一つ一つはいわば枝葉末節のことで、免許を得た者の計画も拒否された者の計画も大同小異でこれをもつて免許の可否を決定するほどのものではない。(但し発起人申請相互における計画の良否判定においては、形式的に判断するほかはないから控訴人主張のような点が問題となるであろう。)

六  以上要するに、被控訴人らは、事業開始に要する資金を自己資金により現実に調達し、これにより営業所、車庫用地を確保し、自動車購入資金も完全に準備し、事業執行者も選任しているのであるから、右各事項の未定、未実現である発起人申請に比して、僅かに収支見積書中に燃料費の内訳がなかつたとか、運行管理者、整備管理者の記載がなかつたとか、或は運転資金の予算が少ないとかその他末梢的な理由で換言すれば、控訴人のいう申請の同一性の限界内で容易に補正できる軽微な事項で免許申請を却下されるいわれはない。

七  控訴人の新不適格事由による却下処分は、

(1)  第一に手続において、控訴人はその主張のような抽象的な基準をたてたのみで、具体的な基準の定立なくして審査したものである。よつて免許の可否を決定すべき事実の認定に対し控訴人の独断を疑うに足りる不公正な手続でなされたのであるから、その内容を論ずるまでもなく違法である。

例えば、イの基準につき、いかなる事実をもつて、事業の適正な運営を期するための役員等の結束力の強固とするのか具体的基準がない。発起人申請の場合については、発起人の株式引受数、兼職の有無及その種類その他発起人が真に結束して、会社を設立し事業を経営するかを判定すべき基準を立てる必要がある。但し法人申請の場合は申請書に添付すべき書類、すなわち定款、登記簿謄本、役員の名簿、免許申請に関する取締役会の決議録、事業計画書の存在の確認ということだけで充分である。けだし発起人は既に会社を設立し現に業務執行者として選任されており取締役会の決議をもつて免許申請をなし、かつその責任において、事業計画を作成し、事業の適正なる運営を明らかにしているからである。(発起人申請の場合、事業の適正なる運営といつても定款を作成した段階であるから無理なことである。)

そのほか、資金計画その調達方法についても、自己資金か否か、他人資本とすれば、その借入先及その条件、調達済か否か、未調達とすれば調達の具体的方法、条件、発起人申請に対しては更に、発起人の資産、株式引受人又は応募者の名簿等の具体的基準が必要である。右のような基準が定立されていたら、被控訴人らの申請と発起人申請とでは非常な差異があることが明白である。

(2)  第二にかりに、控訴人の内部において具体的基準が定立されていたとしても、その基準は適切を欠くものであるから、事実の認定が独断であり、合理性を欠き、かつ評価の軽重を誤つているのである。よつて控訴人主張の不適格事由はいづれも理由がないことに帰するのであつて理由なくしてなされた却下処分は違法であり取消しを免れない。

4  被控訴人らは、営業所、車庫用地として共同で昭和四三年九月二五日東京都文京区駒込千駄木町一九五番地高圧企業株式会社から同都江戸川区長島町五七〇三番一六の宅地一三一一・七平方メートル(三九六坪六〇)と同所同番一八の宅地五二・五九平方メートル(一六)坪を期間昭和四三年一〇月一日から同六三年九月末日まで賃料一箇月五、四六四円の約で借り受け、昭和四三年一〇月一日付で控訴人に対し新たに提出した一般乗用自動車運送事業免許申請書において、これらの土地を営業所車庫用として記載し、本件免許却下処分の取消しが認容され、当初の申請が再審査される場合の限度で事業計画の補正または変更を申請することとしたものである。

第三<証拠省略>

理由

1  まず、控訴人は、被控訴人らの本件免許申請にかかる営業所及び車庫の敷地が第三者に売却されているので、かりに、本件免許申請却下処分が取り消されたとしても、被控訴人らの本件免許申請は却下を免れないものであるから、本訴は訴えの利益を欠く不適法なものとして却下さるべきであると主張するので、この点について判断する。

被控訴人ワカバ交通が本件免許申請にあたり、その営業所及び車庫の敷地にあてるものとして控訴人に提出した事業計画書に記載された東京都杉並区堀の内二丁目四九一番、同所四九二番の一の各土地は、いずれも昭和三七年三月二〇日所有者から訴外大陸交通株式会社に売買譲渡されてその旨の登記がなされ、また、被控訴人エス交通が本件免許申請にあたり、その営業所及び車庫の敷地にあてるものとして控訴人に提出した事業計画書に記載された同都世田谷区大蔵町二五九番の一の土地は、昭和三八年三月二三日同被控訴人から売買により訴外一越観光株式会社へ譲渡されてその旨の登記がなされていることは当事者間に争いがない。

しかしながら、本件免許申請却下処分が判決により取り消されるときは、手続上は、その却下処分がなされる前の状態に復するものであつて、控訴人において、さらに本件免許申請に対し審査をなすべき義務を生ずるものであり、この場合その審査は当該審査当時における事実関係に基づきなされるべきものと解するのが合理的である。したがつて、たとえ前認定のとおり、右の各土地が既に他に譲渡された事実が認められるとしても本件拒否処分取消の判決が確定した後、さらになされるべき審査の時までに被控訴人らにおいて本件免許申請の内容を変更して他に営業所及び車庫の敷地を求めることも可能なわけである。

控訴人はそのような申請内容の変更は許さないとするのが当初の審査の際の取扱いであつたから、本件拒否処分取消の判決後さらになさるべき審査手続においても右取扱いに反することは許されないというが、控訴人のいうように解すると、本件のように免許拒否処分を受けた申請者がその処分取消の行政訴訟を提起して争う場合には、車庫等の敷地に関する限り、取消判決が確定してさらに審査がなされる迄の相当の長期間(本件拒否処分後現在迄既に約九年を経過している。)申請人らは当初の予定敷地を他に転用することなくそのまま保持していなければ、事業免許という終局の目的を達しえないこととなるのであつて、このように免許申請者に対し他に利用できない土地の保持を長期間強いる結果となるような取扱いは酷に失するものというべく、この意味において前記のさらになさるべき審査手続において右の如き申請内容の変更を許すことは当初の審査手続における他の申請者らとの関係において公平を欠くとの批難は当らないものと考える。したがつて前記の如く被控訴人らが当初の申請において予定した車庫等の敷地を他に譲渡した事実を捉え、被控訴人らの本件免許申請はさらになさるべき審査手続において当然却下されるべきものであるとの理由で本訴は訴の利益を欠くとする控訴人の主張は採用することができない。

2  そこで、さらに本案について判断すると、当裁判所も、本件免許申請却下処分の取消請求は正当として認容すべきものと認めるのであつて、その理由は原判決の「理由」中の第二項の該当部分において示された判断と同一であるから、これを引用するほか、次の判断を付加する。

一、被控訴人ら訴訟代理人は、控訴人指定代理人の本案として主張する前記2の四から六までの主張に対しこれが故意又は重大な過失により時機に後れて提出した防禦方法であつて訴訟の完結を遅延せしむべきものであるから却下を求める旨陳述するので、この点について判断すると控訴人の右の主張が初めてなされたのは、昭和四三年一一月二日の当審における第五回準備手続期日であつて、第一審の第一回口頭弁論期日が開かれたのは昭和三七年五月二四日であり、被控訴代理人の主張するように、その間六年五箇月余を経過しているのであるから、時機に後れて提出した防禦方法であると認めざるを得ず、しかも特段の事由のない限りその遅れたことは控訴人の故意又は重大な過失によるものと推認されるのである。そして、右の控訴人の新主張につき当裁判所が判断するためには更に証拠調をなすを要し、それがため本件訴訟の完結を一層遅延せしめることは明らかである。よつて、控訴人の右主張はこれを却下することとする。

3  以上のとおりであるから、本件免許申請の却下処分は審査手続上の瑕疵のため違法なものであり、このため右却下処分は取り消さるべきものと認められるものであつて、この点について被控訴人らの請求を正当として認容した原判決は相当である。

よつて、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 横地恒夫 田中永司 岸上康夫)

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